5月病(猫柳つばさ)
大丈夫かな?
頑張れ。
あゆむ君!
神月君・・・
今のあゆむにはそれすらも、嘲笑のようにしか聞こえなかった。
──結局中止。
「先生が悪かったよ。もう少し場慣れさせるべきだったね」
担任はそう言って謝り、あゆむを励ましたが、あゆむの耳には届いていなかった。
初めての挫折と
ただ、堕ちていく感覚。
あんなに応援してくれていた、四季は何と言うだろうか。
きっとガッカリして、怒るだろう・・・とあゆむは俯いた。
自分が恥を欠いたことよりも、そのことの方があゆむを苦しめた。
──
そうして今、あゆむはここに居る。
あれ以来、何をする気にもなれないし、食欲もなく・・・身体も疲れやすい。
新緑の中で鬱々としながら、あゆむは再び呟いた。
「はぁ・・・何で僕ってこうなんだろう・・・・・・」
「・・・何が何でだって?」
聞き覚えのある、不器用で優しい青年の声があゆむの堕ちてゆく心をすくいあげた。
「にいにい・・・っ!」
四季が「よっ」とあゆむにウインクを飛ばす。
「どうして・・・っ」
飛び起きて戸惑うあゆむに、四季は"ぴんっ"とでこピンすると、さっきの少しフザケタ笑顔からすぐに真面目な顔になってあゆむに尋ねた。
「最近元気なかったろ。あゆらしくないぞ。・・・何かあったのか?」
「うぅん、何にもないよ。ただ、ちょっと最近身体がだるくって・・・」
あゆむは俯いて、膝を抱えた。
「・・・・・・そうか」
四季は黙ってあゆむの横に座り、ポケットから飴を取り出すと、咥えてなめ始める。
あゆむは俯いたまま。四季も黙ったまま、時が流れた。
何時もと違う空気。
息苦しい。
・・・気がつくと、あゆむの瞳から自然と涙が零れ、鮮やかな若草の絨毯を濡らしていた。
「あれ・・・ぇ?」
四季もあゆむ自身も。突然の涙に少し驚いた。
しかし先に四季があゆむの気持ちを理解し、その不器用な手でもう一度、あの時みたいに優しくうさみみ頭を撫ぜた。
あゆむ自身は自分の気持ちが全く見えていないというのに。
それと同時にあゆむは激しく泣き始め、初めての挫折の全てを四季にぶつけた。
四季はただじっと飴を口にしながら、あゆむの話を聞いた。
何時だって。
この人には何でもわかってしまうんだ。
「僕・・・こんなじゃなくて・・・・・・っ、にいにいみたいになりたいよぅ・・・っ」
四季は"ぽんぽんっ"とあゆむの頭に乗せた手を優しく動かした。
「あゆはあゆでいいんだよっ」
はっとしてあゆむは目を見開いた。
あゆむの全てを受け入れる言葉だった。
あゆむの泣き顔がその一言で一瞬にして笑顔へと変身した。
そうだ。
あれが今の精一杯だったんだ。
少しずつ行こう。
今の自分をいきなり変えることなんて出来ないんだから。
・・・でも、変わるなら──
「やっぱり僕、にいにいみたいになりたいなっ」
再び照れくさそうに四季は飴を口に含んで、あゆむから顔をそらす。
水底に沈み行く筈だったあゆむの心は四季の両手で、水面へとすくいあげられる。
そこで見たものは、煌めく夢と青い青い空の向こうの大きな虹だった。
四季はごそごそとポケットを探ると、自分が咥えているのと同じ飴を取り出し、あゆむに差し出した。あゆむは嬉しそうにそれを受け取ると、輝く笑顔で言った。
「ありがとう、にいにい。僕、次は絶対全部読むよ!」
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